猿かに合戦、じゃないよ
お、なんだかうまそうな柿じゃないか。どうしたんだ、そんなもの。またご隠居の庭から失敬してきたのか?
そんなこと言うと、父ちゃんにはあげないわよ。ほら。おいしそうでしょ。お散歩の途中でおばあちゃんにもらったのよ。
へえ~。お前ずいぶん顔が広いんだな。
えっへん。
なんだ、そりゃ。高いところから偉そうに上から目線で。
ま、いいわ。
なにが、ま、いいわ、だ。それはこっちのセリフ。だから、その柿はどうしたんだって訊いてるの。
お散歩途中の角のおうち、妙に声の高いおばあちゃんが居るでしょ。
ああ。
あのおばあちゃんがね、今朝前を通ったら、柿の木の上の方で枝に這いつくばってたのよ。
ほう、危なっかしいな。
でしょ。だからあたち、心配でずっと見上げてたのよ。
そしたらおばあちゃん、あたちに気づいて。それで、柿をもぎ取ったかと思うと、「持ってけ」と上から放り投げてくれたの。
ふうん。
あたち、柿にあたって潰れちゃうかと思ったわよ。
さるかに合戦みたいな話だな。で、結局3つももらってきたのか。よく持って帰れたな。
それは言わない約束でしょ。
さ、父ちゃんも食べてみなさい。おいしいわよ。ついでにあたちの分も皮むきお願いね。
とうちゃん、個人的にはもうちょっとやわらかいのがいいな。
いやよ、あんなぐにょっとしたのなんか。柿はやっぱりこのぱりぱり感が大事よね。
ああ、おいしかった。
そうだな。おばあちゃんに何かお礼をしないと。
あたちこれがいいと思うのよ。今日父ちゃんがお昼食べてる間に作ったの。
どれどれ。
おお、いいじゃないか。
ね。父ちゃん、これ印刷しておばあちゃんにあげて頂戴ね。
じゃ、明日の朝の散歩でポストに入れるとするか。