なんか匂うわ
ただいま。
父ちゃん、お休みだっていうのにあたちを置いてどこ行ってたのよ。
ないしょ。
あら、くんくん・・・なんか匂うわね。これは・・・。はっ、父ちゃんもしや。
あたちをほったらかしてほかの若い犬と遊んできたわね。きぃーっ。
これこれ、落ち着けおちつけ。いま説明してやるから。
ちゃあんと耳をそろえて説明してもらおうじゃないの。
ああ。だけどお前、日本語変だぞ。
細かいことはいいから、早く説明しなさい。
父ちゃん今日は羽田空港に行ってきたんだ。
飛行機が着くところ?あたちも行ったことあるわ。よく覚えてないけど。
そう、お前オーストラリアから飛行機で日本に来たんだぞ、まだ父ちゃんの子になるまえだ。
へえ、そうだったの。ちょっと思い出してきたかなぁ。
よく思い出せ。それと同じように、今日、母犬のもとを離れ、東京に飛行機でやってきた子がいるんだ。その子を空港で引き取り、新しい家族のもとに届ける。父ちゃん今日はそんなことをして来たんだ。
なんだか、他犬事じゃない気がして来たわん。
そうだろ。
なんでそんなことして来たの?
犬を買うとき、飼い主は対面で犬の説明を受けなければならなくなった。だから、地方から上京してきた犬をそのまま空港で新しい家族が連れて行ってしまうわけにはいかなくなったのだ。そこで、父ちゃんみたいな人間が犬の飼い方や健康状態、しつけ、去勢・避妊、そして法律などについて説明するんだ。
へえ、なんか偉いわね。
まあ、まだ見習いだけどな。
で、今日はどんな子だったの?
トイプーの男の子だ。お前の1/10くらいの体重の、かわいらしい子だったぞ。
きゃあ、かわいい。
だろ。新しい飼い主さん家族もやさしそうな人たちだったし。この子はきっと幸せに暮らせるだろう。
よかったわねぇ。
ところで父ちゃん、なんでそんなこと始めたのよ?
お前がうちに来て以来、父ちゃん犬ともっと関わりたくなったのだ。そして一人でその仕事をするには役所の許可がいるんだ。許可をもらうには実務経験がいる。だから見習いで始めたんだ。
父ちゃん、頑張ってね。
ああ、父ちゃんの知り合いも犬の仕事始めたらしいし、父ちゃんも頑張らねばな。お前のごはん代も稼がないといけないし。
あたちそんなに大食いじゃないわん。
よく言うよ。まあ、お前が赤ちゃんの時に父ちゃんが一日分のごはんを一回分と間違えて無理やり食べさせてたせいもあるから、あんまり強くは言えないけど。
父ちゃん、それ虐待よ、今や。
ま、あれは動愛法改正以前だったし、許せ。